「私、きれい?」
夕暮れ時、学校帰りの通学路。マスクをした若い女性が突然あなたの前に現れて、こう聞いてきたら――。
1979年、この一言が日本中を恐怖のどん底に叩き落としました。パトカーが出動し、集団下校が実施され、子どもたちは夜道を歩けなくなりました。口裂け女の都市伝説です。
でも、ちょっと待ってください。マスクして「きれい?」って聞いてくる時点で、なんか矛盾してません?(笑)まあ、それはさておき、この都市伝説がなぜこれほどまでに人々を恐怖させたのか、その真相に迫っていきましょう。
口裂け女とは?基本ストーリー
まずは口裂け女の基本ストーリーをおさらいしておきましょう。
遭遇パターン
- 夕暮れ時の遭遇
人気のない道を歩いていると、大きなマスクをした若い女性が現れる - 最初の質問
「私、きれい?」と聞いてくる - 答えによる展開
- 「きれい」と答えた場合 → マスクを外して「これでも?」と耳元まで裂けた口を見せる
- 「きれいじゃない」と答えた場合 → その場で包丁や鋏で切り殺される
- 逃走しても無駄
走って逃げても時速100キロで追いかけてくる(人間やめてる)
撃退方法(諸説あり)
都市伝説ならではの、謎の撃退方法がいくつか存在します:
- 「ポマード」と3回唱える – なぜポマード?昭和感がすごい
- べっこう飴を渡す – 好物らしい(かわいい)
- 「普通」と答える – 中立的な答えで混乱させる作戦
- 犬に遭遇させる – 犬が苦手という設定も
ちなみに時速100キロで追いかけてくる設定なのに、べっこう飴で誤魔化せるって、口裂け女さん意外とちょろいのでは…?
口裂け女の歴史|発祥は岐阜県
1978年:最初の目撃情報
口裂け女の最初の目撃情報は、1978年12月初旬、岐阜県本巣郡真正町で報告されました。
農家の老婆が母屋から離れたトイレに行った際、口裂け女を目撃して腰を抜かしたという話が広まります。この話が1979年1月26日の岐阜日日新聞に掲載され、メディアデビューを果たします。
1979年:全国パニックへ
1979年6月、『週刊朝日』が大々的に口裂け女特集を組んだことで、この都市伝説は一気に全国区へ。
春から夏にかけて、日本全国の小・中学生の間で口裂け女パニックが発生しました。
実際に起きた社会現象:
- 福島県郡山市・神奈川県平塚市でパトカー出動騒ぎ
- 北海道釧路市・埼玉県新座市で集団下校が実施される
- 1979年6月21日、兵庫県姫路市で口裂け女のコスプレをして包丁を持った25歳の女性が逮捕される(これは完全にアウト)
これ、今だったら完全に社会問題ですよね。っていうか当時も社会問題だったんですが。
1979年8月:急速な沈静化
しかし、8月に入ると口裂け女パニックは急速に沈静化します。
理由は単純で、夏休みに入って子どもたちの口コミが途絶えたためとされています。つまり、学校という情報拡散の場がなくなったことで、自然と噂が収束していったわけです。
インターネットもSNSもない時代、口コミの力ってすごかったんですね。逆に言えば、情報源が断たれれば簡単に沈静化するという脆さもあったわけですが。
口裂け女の正体|様々な説
口裂け女の正体については、様々な説が存在します。
説①:精神病院脱走説
最も有名なのが、岐阜県多治見市の精神病院から女性患者が脱走したという説です。
この女性は精神に異常をきたしており、顔の下半分に真っ赤な口紅を塗りたくっていたとされています。この異様な姿を目撃した人々の記憶が、口裂け女伝説の源流になったという説です。
ジャーナリストの朝倉喬司氏の調査によれば、岐阜県での最初期の噂では、口裂け女は精神病院からの脱走者として語られていたとのこと。
説②:整形手術失敗説
1990年代に加わった設定で、美容整形手術に失敗して口が裂けてしまった女性という説。
この説が追加されたのは、ちょうど美容整形が一般的になってきた時代背景があります。都市伝説も時代に合わせてアップデートされるんですね。
説③:飛騨川バス転落事故説
1968年8月18日に発生した飛騨川バス転落事故の犠牲者に関連する説も存在します。
事故現場の川から発見された白骨化した頭蓋骨を復顔したところ、口が耳まで裂けていた。口裂け女はその亡霊だという説です。
ただし、これは完全に後付けの設定っぽいですね。事故自体は本当にあった悲惨な事故ですが、口裂け女との直接的な関連性は不明です。
説④:郡上一揆の怨念説
さらに歴史を遡ると、1754年の郡上一揆に関連する説もあります。
美濃国郡上藩(現在の岐阜県郡上市)で起きた郡上一揆の後、多くの農民が処罰されました。その犠牲者の怨念が妖怪伝説となり、時を経て口裂け女に姿を変えたという説です。
正直、これはちょっと飛躍しすぎな気もしますが、口裂け女の発祥地が岐阜県という点では一致しているのが興味深いですね。
江戸時代にもいた?口裂け女の原型
実は口裂け女のルーツは、江戸時代まで遡ることができます。
怪談集『怪談老の杖』には、江戸近郊の村々を震撼させた、**狐が化けた「口裂け女」**の物語が記録されています。また、読本『絵本小夜時雨』にも口裂け女に関する記述が見られます。
ただし、江戸時代の口裂け女は妖怪や化け物としての性質が強く、1979年に流行した都市伝説の口裂け女とは直接的な関連はないとされています。
つまり、「口裂け」という恐怖のモチーフ自体は、日本人の精神世界に古くから根付いていたということですね。怖いものって、時代を超えて共通するものがあるんですね。
口裂け女の派生・バリエーション
日本各地で口裂け女の噂が広まる過程で、様々な地域バリエーションが生まれました。
二口女(ふたくちおんな)
頭の上にもう一つの大きな口を持つバージョン。「きれい」と答えた相手には髪の毛をかき分けてその口を見せ、「ブス」と言うとこの口で食べられるという設定。
これ、もはや別の妖怪では…?
口割れ女(愛媛・徳島)
愛媛県・徳島県での呼び名。
- 愛媛バージョン:「美人ですか?」と尋ね、答えない相手を包丁で刺し殺す(ストレート)
- 徳島バージョン:赤いセリカに乗って現れ「私の目はきれい?」と尋ねる。べっこう飴じゃなく地元名産の飴玉が好物
この名称は、地元新聞社が口裂け女を誤って「口割れ女」と報道したために発祥したと言われています。地元新聞の誤植が新バージョンを生んだって、都市伝説らしいエピソードですね。
整形おばけ(広島)
口裂け女流行の2~3年前、広島では「整形おばけ」の都市伝説がありました。
「私、きれい?」と尋ね、「きれい」と答えるとケロイドだらけの顔を見せて追いかけてくるというもの。口裂け女の直接の前身とも言える都市伝説です。
海外進出する口裂け女
2000年以降、口裂け女はインターネットを通じて海外にも伝播しました。
韓国での流行
2004年には韓国でも口裂け女パニックが発生。ただし、韓国バージョンは独自の進化を遂げています:
- マスクの色が赤に変わった
- 角を曲がれない(韓国の伝承では魔物は直進しかできない)
- 階段を上れない
- スキンヘッドでマスクをした「口裂け男」のボーイフレンドができた
ボーイフレンドって…口裂け女さん、海外でリア充になってるやないかい!
中華圏・台湾での認知
中華圏や台湾でも口裂け女は有名になりました。インターネットがなかった1979年当時、日本国内だけで爆発的に広まった口裂け女ですが、ネット時代になって国境を越えて伝播する都市伝説の代表例となったわけです。
現代の口裂け女|映画化・メディア展開
口裂け女は現代でも様々なメディアで取り上げられています。
映画作品
- 『口裂け女』(2007年) – 口裂け女を題材にしたホラー映画
- 『口裂け女2』(2008年) – 続編
- 『口裂け女 VS かしまさん』(2016年) – 都市伝説対決シリーズ
- 『口裂け女 VS かしまさん2』(2018年)
- 『口裂け女 VS メリーさん』(2017年)
- 『口裂け女 in LA』(2014年) – 海外進出
- 『ゴーストマスク〜傷〜』(2019年・韓国) – 韓国版口裂け女
都市伝説同士が戦う映画って、完全にプロレスみたいなノリですよね(笑)
ゲーム・アニメでの登場
- 『真・女神転生if…』 – 「悪霊くちさけ」として登場
- 『女神異聞録ペルソナ』 – バックアタック+全体即死魔法でプレイヤーにトラウマを与えた
- 『学校の怪談』などのアニメ作品にも登場
ただし、『ゲゲゲの鬼太郎』第6期では、人面犬や花子さんは登場したものの、口裂け女は未登場。「刃物を持って追いかけてくる、限りなく人間に近い姿の妖怪」という点が、子ども向け作品での描写が難しかったのかもしれません。
コロナ禍での口裂け女
2020年以降のコロナ禍では、思わぬ問題が発生しました。
みんながマスクをしているので、口裂け女が目立たない
「マスクしてる女性」が日常風景になってしまったため、口裂け女の特徴が完全に埋もれてしまったわけです。
さらに、マスクを外そうとすると「飛沫が危険だから外すな!」と怒られる始末。無理やり外すと「ソーシャルディスタンス!」と言って目を逸らされ逃げられる。
口裂け女さん、完全に時代の被害者になってますね…。都市伝説にも時代の波は厳しいのです。
なぜ口裂け女は今も語り継がれるのか
口裂け女が長年愛されている(?)理由は、そのリアリティの絶妙なバランスにあります。
現実とファンタジーの境界線
「マスクをした女性が道に立っていて襲われる」という設定は、実際の事件としても起こりうる範囲内です。不審者や異常者は現実に存在するため、完全なファンタジーとして切り捨てることができません。
一方で「時速100キロで追いかけてくる」「べっこう飴で誤魔化せる」といった超常的要素も含まれているため、単なる犯罪報道とも異なります。
この**「ありえるかも?でもないでしょ?でもひょっとして?」**という絶妙なラインが、都市伝説としての完成度を高めているんですね。
時代に合わせた進化
口裂け女は時代に合わせて設定が追加・変更されてきました:
- 1970年代:基本形(マスク、包丁、ポマード)
- 1990年代:整形手術失敗説の追加
- 2000年代:映画化、海外展開
- 2010年代:都市伝説バトル路線
- 2020年代:コロナ禍での新解釈
このように、時代の変化に合わせて柔軟に変化できる点も、口裂け女が長く語り継がれる理由と言えるでしょう。
まとめ|口裂け女都市伝説の教訓
口裂け女の都市伝説は、単なる怖い話以上の意味を持っています。
情報伝播のメカニズム
1979年当時、インターネットもSNSもない時代に、わずか数ヶ月で日本全国に広まった口裂け女パニック。これは口コミの力とメディアの影響力を如実に示しています。
逆に、夏休みという情報拡散の場が失われただけで急速に沈静化したことも、情報伝播のメカニズムを理解する上で重要な事例です。
社会不安の反映
都市伝説は、その時代の社会不安を反映すると言われています。
1970年代後半の日本は、高度経済成長の歪みが表面化し始めた時期でもありました。口裂け女という「美しさを問う存在」は、当時の美意識や価値観の揺らぎを象徴しているのかもしれません。
整形手術失敗説が1990年代に追加されたのも、美容整形が一般化した時代背景を反映しています。
都市伝説の生命力
40年以上経った今でも、口裂け女は語り継がれています。
映画化され、海外に輸出され、他の都市伝説とバトルし(笑)、コロナ禍でネタにされ――。形を変えながらも生き続ける口裂け女は、都市伝説の生命力を体現した存在と言えるでしょう。
さいごに
「私、きれい?」
もしあなたが夕暮れ時の道でこう聞かれたら、どう答えますか?
「きれい」と答えるべきか、「きれいじゃない」と答えるべきか、それとも「普通」と答えて混乱させるか。はたまたべっこう飴を差し出すか、「ポマード!ポマード!ポマード!」と叫ぶか――。
まあ、現代なら「すみません、急いでるんで」と言ってスマホ見ながらスルーするのが正解な気もしますが(笑)
それでも、夜道を一人で歩くときにふと口裂け女のことを思い出してしまうのは、この都市伝説が持つ**「ありえないけど、ひょっとして…」**という絶妙な恐怖のバランスが優れているからなんでしょうね。
信じるか信じないかは、あなた次第です。
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